カナダに来てから10年ちょっと経ちますが、まだ調理したことのない野菜があります。そのひとつがRutabagaです。Swedeとも呼ばれるこの根野菜、上の写真の真ん中にある白と紫の丸っこい野菜です。北アメリカやヨーロッパでは一般的らしいのですが、日本では見たことがなくてどうやって調理したらいいかわかりませんでした。そんな時、YouTubeでGordon RamseyがRutabagaとカルダモンを使ってスープを作ってるのを見て、最近寒くなったし、1パウンド78セントと安かったので作ってみることにしました。そこで気になったのが栄養価。そして誰がどうやって栄養を調べているのかということと、昔と比較した農作物の栄養価の変化について。
栄養価の情報の出処
この野菜はビタミンC が豊富だとか、このサプリメントでレバー200g分の鉄分が取れるだとか耳にすることがあるかと思いますが、これらの情報はどこから来ているのでしょうか?
アメリカ・カナダの場合、栄養価計算などのツールに用いられているデータはよく、米国農務省 (United States Department of Agriculture)やカナダ保健省 (Health Canada)によって調べられたもののようです。
米国農務省のウェブサイトには、メリーランド州のBeltsvilleにある研究機関での栄養関係の研究情報も載っていて、クロマトグラフィーや質量分析機を用いたより高性能な分析法の研究も行われているようです。これは信用できそう。
日本の場合、厚生労働大臣の登録を受ければ、民間企業でも食品検査ができるそうです。登録検査機関の一覧はこちらで見れます。
野菜や果物の栄養価が低下してるってホント??
野菜や果物の栄養成分の驚くべき低下・野菜の栄養価は昔に比べてこんなに低下している
栄養価について色々読んでるうちに、ブログやニュースレターでよくこんなタイトルを目にしました。それは英語で読んでも同じ。
実際、Davis et. al. (2004)やWhite & Broadley (2005)など、科学雑誌に50〜70年前と最近のデータを比べた結果が発表されています。それによると、アメリカとイギリスで1930年と2004年の農作物(24種の野菜、41種の果物、8種のナッツ類)のデータを調べたところ、銅、カルシウム、鉄分が著しく低下しているという結果が出ています。[ 1 ]
また、アメリカで1950年と1999年の43種類の農作物のデータ(米国農務省による)を調べた研究では、タンパク質、カルシウム、リン、鉄分、リボフラビンとビタミンCの低下が統計学的に確かな値で示されたようです。[ 2 ]
どうして低下しているという結果が出ているのか
過去と現在のデータを比較して、栄養価が低下しているという結論が出たからと言って、実際に私達の口に入る農作物の栄養が格段に違っているというわけではないかもしれません。
その理由はいくつもあります。
- 70年も経てば技術の発展で、栄養成分分析法も変わる
- 分析環境による違い
- 分析したサンプルによる違い(旬により栄養価は変わる)
- 近代農業の影響で土の栄養分が少なくなっている
- 分析したサンプルの遺伝子的種類による違い
上記のすべての理由によって、昔と今の比較結果は変わってきます。
論文のひとつに書いてあったように、栄養の『希釈効果』は、より大きく大量の農作物生産を目標にした近代農業の影響により、採れたものの重量は増すが栄養がそれに伴わないことです。[ 2 ] その影響で確かに栄養が低下したかもしれませんが、それによって野菜や果物を食べる意義がなくなるわけではありません。
そして、論文を読んでて驚いたのは、見た目がそんなに変わらなくても、遺伝子レベルの違いで栄養素が格段に変わってくるということ。例えば、50種類のブロッコリーを比べたとき、10倍までもの違いが、ベータカロチンなどの抗酸化物質の値で見られたこと。[3]
じゃがいもに含まれるビタミンCの値も、75体のクローン(遺伝子構造は同じということ)をアメリカの3つの異なる州で育てたところ大きなバラつきが出たらしい。遺伝子的要素も大切だけど、育った環境が栄養価に与える影響もかなり大きいようです。
私が育った長野県の某都市には、自分の家で野菜を作っている家庭が少なくありません。うちは家業が飲食店だったので、友達から採れたてのナスやシシトウを夏に貰うと、喜んでおばあちゃんと天ぷらを作ったものです。そんな野菜は、スーパーで買うものよりもずっとおいしかった記憶があります。
それと同じく、産直の野菜や自分で育てた採れたての野菜には、何百キロも離れたところから輸送されてきた野菜よりも栄養価があると考えていいと思います。農業コンサルの方のブログにも書かれているように、旬のものを食べることでより高い栄養価が期待できる。それから、グツグツ煮る代わりに蒸したり生で食べることで水溶性の高いビタミンC などは多く摂取できるはず。
Rutabaga (Swede) とカルダモンのスープ
さて、本題に戻って、Rutabaga(ルータベガと発音する)とカルダモンを使ったスープの紹介。詳しい作り方は レシピ by Gordon Ramsey を参照のこと。
米国農務省のデータベースによると、Rutabegaには100グラムあたり、1グラムのタンパク質が含まれていてビタミンC やカリウムも豊富なのにカロリーはたったの50Kcal!
必要なもの:
- rutabaga
- セロリー
- 玉ねぎ
- クリーム
- スープストック(チキンでもコンソメでもOK)
- タイム
- カルダモン
- オリーブオイル
- 塩コショウ
- (お好みで) ナツメグ
- (お好みで) 炒ったくるみ
Enjoy!
参照資料 & 使わせて頂いた写真のcredit:
[1] Donald R. Davis, Melvin D. Epp & Hugh D. Riordan (2004) Changes in USDA Food Composition Data for 43 Garden Crops, 1950 to 1999, Journal of the American College of Nutrition, 23:6, 669-682, DOI: 10.1080/07315724.2004.10719409
[2] P.J. White & M.R. Broadley (2005) Historical variation in the mineral composition of edible horticultural products, The Journal of Horticultural Science and Biotechnology, 80:6, 660-667, DOI: 10.1080/14620316.2005.11511995
[3] Anne C. Kurilich, Grace J. Tsau, Allan Brown, Lenora Howard, Barbara P. Klein, Elizabeth H. Jeffery, Mosbah Kushad, Mathew A. Wallig, John A. Juvik (1999) Carotene, Tocopherol, and Ascorbate Contents in Subspecies of Brassica oleracea, Journal of Agricultural and Food Chemistry 7:4, 1576-1581, DOI: 10.1021/jf9810158
[4] Love, S. L., Salaiz, T., Shafii, B., Price, W. J., Mosley, A. R., & Thornton, R. E. (2004). Stability of Expression and Concentration of Ascorbic Acid in North American Potato Germplasm, HortScience HortSci, 39(1), 156-160.